みらい対談(特別編

茂木:現役鑑定士の名で経済学の杜にも度々ご登場の宮本弘文さんは、今年度の本試験問題をほぼ的中するなど(的中率85%)、かなり受験業界から実務に至るまで精通され、出題傾向を把握されていると伺えます。
 そのような立場から、現在、「不動産鑑定士」という職業に対する魅力はどのようなところにあるとお考えでしょうか?
また、どのような人にお薦めしたい資格といえるでしょうか?
ザックリお聞かせ願います。

宮本:本年度・鑑定士二次試験の鑑定理論問題において、わたしの予測がほとんど的中し、このサイトを利用された受験生各位のお役に立つことができたことについて大変嬉しく、また光栄に思います。ここ数年の出題傾向と試験委員の得意分野、さらには昨今の実務動向などを踏まえて予測すれば、的中率が50%を割ることはあり得ないと思っていましたが、考えていた以上の的中率でしたね。来年以降も皆さんのお役に立つ情報を提供してまいりたいと思います。


 それでは、不動産鑑定士の魅力について私が思うところを申し上げましょう。昨今の不動産市場を取り巻く環境変化にともない、不動産鑑定士の役割も変わりつつありますね。バブル経済がはじける前までは、利用状況に関わらず土地というだけでその価格が上がっていったわけですが、いまはその不動産を利用することによってどのような価値が生じるのか、という点が重視されます。まさに所有から利用への価値観の転換といえますが、こうした状況を踏まえて、鑑定士も、単なる土地価格の評価人から都市空間の総合プロデューサーとしての役割を期待されるようになりました。同じ土地であっても、当該地に分譲マンションを建設するのか、あるいは、賃貸オフィスを建設するのかによってその経済価値には無視できない差異が生じます。

みなさんもご存じの通り、不動産の鑑定評価では、評価主体が対象不動産の最有効使用というものを判定したうえで具体的な鑑定評価の手法を適用するわけですから、不動産の評価を通じて、まさに価値を創造する作業を行うことになります。その土地に対する様々な可能性・選択肢のなかから、評価主体がひとつの方向性を決め、これをもとに価値づけていくわけですよね。ここに鑑定士の魅力がありますね。まぁ、価値の創造といっても、実現性・合法性の観点から逸脱したことはできませんが(笑)。

この価値創造には、単に不動産市場や評価手法についてある程度知識があるというくらいではダメで、広い視野、アカデミックな素養、さらには現実に生起している市場動向の背後にある価格形成要因を把握しうる深い洞察力が求められます。


宮本:また、さきほど申し上げたように不動産を取り巻く環境、より具体的にいえば、人口動態、産業構造、建築行政・税制等の法律、経済金融情勢、不動産市場における市場人の行動パターンなどは常に変動的です。それに加え、ご案内のとおり不動産鑑定評価基準も03年1月に大きく変わりましたよね。

これらの変化に対応するためにはまさに不断の勉強が必要なわけで、まぁ鑑定士は、いろいろなことを考察することが好きな、いわゆる勉強好きの人に薦めたい資格・職業といえますね。

 

茂木:不動産鑑定士は、重い任務がある国家資格で、鑑定士になるまでの勉強もたいへんですが、実際に鑑定士になってからの方が皆さんたいへんな苦労をされているようです。
 現役鑑定士の立場から、主な依頼先の属性や内容、その仕事のフレームやスケジューリングのようなものをお聞かせ願えませんか?できれば、年間スケジュール、1日のスケジュールのようなものがあれば光栄です。









 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


宮本:
鑑定評価の依頼は、大きく公的部門と民間部門のふたつに分かれます。前者の代表例としては、国土交通省地価公示、都道府県地価調査、相続税路線価、固定資産税評価がありますね。ほかには、用地買収にあたっての適正価格算出を目的とした役所からの依頼があります。

ただ、作業内容やその背景に関してバラエティーに富んでいるのは、民間からの依頼の方ですね。相続時・売買時(特に当事者間売買)の税務申告、売買価格の決定、地代・家賃改定・立退き等の争訟、担保評価、不動産を現物出資する場合の時価評価などが昔からある依頼目的ですが、ここ数年は、不動産証券化、時価会計がらみの案件も多いですね。


 仕事のスケジュールについては、依頼目的と内容によっても相違しますが、依頼から評価書発行まで通常2週間程度が標準だと思います。その間に、皆さん鑑定評価基準を勉強されているのでわかると思いますが、対象不動産の確定・確認、価格形成要因分析、鑑定評価の手法適用を経て鑑定評価額を決定していくわけです。

まぁ、一つの案件だけですと、当然それほど時間はかからないのですが、複数の案件を同時並行して作業しますし、デスクワークだけではなく、取引事例を含めた現地調査、役所・法務局調査もありますから、相応の時間は要しますね。

 年間スケジュールについてですが、申告・提出時期が予め決まっている仕事例えば税理士や社会保険労務士と違って、あまり年間ベースでの縛りはないですね。ただ、先に述べた地価公示作業などについては、大体決まったものがあります。担当地区ごとに10数名で構成される分科会に属し、地価公示を例にとると、9月初旬から翌年1月中旬まで、6回程度の会合を開き、最終的な公示価格を決定していきます。地価公示の評価書提出時期は、1月15日前後ですね。


 1日のスケジュールですか・・・。まぁ、これも日によって違いますねぇ、答えになっていないですけど(笑)。朝から現調という日もあれば、1日事務所で評価書作成ということもあります。その間、依頼人との打ち合わせも入ってきます。


茂木:不動産鑑定士試験は、近いうちに新試験制度に移行しますが、その背景にはさまざまな思惑があると思われます。
新試験導入後、鑑定士業界はどのように変化すると思われますか?

宮本:う〜ん、これは二次試験の予測より難しいですねぇ(笑)。新試験導入後の変化に関する予測、ではなく、今後の業界のあり方に関する願望、希望というかたちで申し上げたいと思います。試験そのものの負担を減らして門戸を拡げ、そのかわり職業人生のなかで競争してもらうというのが国交省の基本的なスタンスであり、これには私も賛成です。


 さまざまなバックグラウンドをもった人が鑑定業界にはいることにより、業界全体の活性化につながればいいなと思いますね。新試験も従来の科目に建築学や統計学といった理系科目を選択科目として導入しようとする案もあるようですし、実際そうなれば建築士さんなどもこの業界に入ってこられる道がひろがります。建物を知らない鑑定士も多いので、いい刺激になると思います。

そもそも鑑定評価は総合科学です。従来の試験科目である民法、経済学、会計学、行政法規だけで必要充分なのではなく、これからは金融工学、都市社会学、経済心理学なども精度の高い鑑定評価では必須となるでしょう。とにかく広い視野をもちつつ、他者にこれだけは絶対負けないという専門性を持った鑑定士だけが生き残るのではないでしょうか。




茂木:
最後に、経済学の杜を閲覧している受験生の方々へ応援メッセージをお願いします。

宮本:すべてを鵜呑みにするのではなく、常に疑問と批判精神を持って勉強して頂きたい。鑑定理論で基準をお経よろしく丸暗記する人がいますけど、基準にだって不適切な箇所、時代に合わなくなった箇所は多々あります。代表例は、借地借家の価格・賃料のところですね。あれはバブル経済崩壊前の地価、家賃高騰期のみに対応する評価手法です。

しかし、今回の基準改定でも手つかずの状態で残ってしまった。残念です。基準の不適切なところをうまくアレンジして鑑定評価できる、つまりしっかりした基礎の上に応用力のある鑑定士を目指していただきたいですね。


もうひとつ、試験科目である行政法規を例にあげて説明しましょうか。都市計画法にしても建築基準法にしても日本の土地利用規制は甘すぎます。この甘さが不動産市場の歪さ、決して恵まれているとは思えない生活環境を生んでいるといえますね。用途規制はアメリカのゾーニング制度と、開発許可制度はイギリスのそれと、地区計画制度はドイツのFプラン・Bプランと比較すれば、日本の土地法制度の特異性がよく理解できるでしょう。いまはそれどころじゃなくて試験科目として勉強するのが精一杯だと思われるかもしれません。しかし、皆さんは試験合格ではなく、質の高い鑑定士になって社会貢献することに目標をおくべきです。いまから視野をひろげて多角的に勉強すべきでしょう。


まぁ、このように申し上げると、暖かい応援メッセージというよりも、なんと申しますか手厳しい忠告に聞こえるかもしれませんね(笑)。
 いずれにせよ、無数にある人生の選択肢のなかで、不動産鑑定士という職業を選んだことについては、私自身正しい選択だったと実感しております。皆さんも初心を忘れずに、そして最後まであきらめずに頑張ってください。
 

 

 


 

 

 

 



 

 



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